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様にご相談したい旨がありまして」
報春院は細く息をくと
「…まぁ良い、こちらへ」
濃姫を自身の前に控えさせ
「そちはし下がっていなさい」
「はい、大方様──」
速やかに侍女を部屋から出した。
濃姫が前触れもなく訪ねて来る時は、大抵、人には聞かせられない話をする時である。
果たしては何であろう?
そう言えば、胡蝶と蘭丸の婚礼を早めることにしたと、以前 信長が言っていた。
その件であろうか?
報春院は極めて冷静に構えて、相手が話し出すのを待った。
畳の上に白い指先をえ、濃姫はゆったりと頭を垂れる。
「かような刻限に押しかけてしまった無礼、改めて、お詫び申し上げます」
「……」https://www.easycorp.com.hk/zh/secretary
「実は──胡蝶のことで、義母上様へご相談致したき儀がございます」
やはり、と報春院はどこか得意な顔になって頷いた。
「そなた様のことじゃ、そうではないかと思うておりました」
「義母上様」
「それで? 此度は何です」
「……はい、まことに申し上げいことながら」
「いや、言わずとも良い。おおよそ察しは付いておる。胡蝶と蘭丸殿の婚礼のことであろう?
式の日時や段取り、介添人など、決めねばならぬことが山のようにあるからのう」
報春院は軽やかな声色で言ったが、濃姫は「あ…」と残念そうな表情を浮かべて
「まことに畏れながら、胡蝶の婚礼の話ではございませぬ」
そう静かに否定してから
「しかしながら、あの子の将来に関わる話ではございます」
と、つけ足すように言った。
その意味有りげな物言いに、報春院は片眉をノの字に歪めたが、
あえて問い返すことはせず、相手が言葉を継ぐのを待った。
「──その旨を義母上様にお話しする前に、どうか私の、夢物語をお聞き下さりませ」
「夢物語?」
「そう申せるほど、良い話でもございませぬが」
恥じるような微笑を浮かべると、やおら濃姫は背筋を正し、な眼差しを姑に向けた。
「出来ますれば、笑わずにお聞き下さいませ。この夢の話をしますと、あの上様でさえ呆れ果てた笑みを漏らすものですから」
「前置きは良い故、話してみよ。笑うか笑わぬかは、それからの話じゃ」
「……はい」
濃姫は、亀がに首を引っ込めるが如く、一瞬 肩をめるようにして縮こまると、
「実はずっと以前より」と言葉に弾みをつけてから、例の不吉な夢の話を淡々と語り始めた。
もう何度 語ったか分からぬ話なだけに、信長に話した時よりも、幾分かスラスラと説明が出来た。
報春院は、そんな夢にしか過ぎない話を、口端一つ動かすことなく、真剣な面持ちで聞いている。
比較的 現実主義者である報春院は、内心では馬鹿馬鹿しき夢の話くらいにしか思っていなかった。
本能寺の最奥で信長が炎に包まれるという、不吉だが曖昧な話である。
この妻に信頼を寄せている信長ですら、呆れ顔を浮かべたというのだから尚更 無理もない。
しかし報春院は、全く信長と同じ反応をし続けた訳ではなかった。
それは、濃姫がその悪夢を気にかけるが故、自身も信長に従って上洛するという旨を、聞かされていた時だった。
「…といった次第にございまして、私が京へ参っている間、どうか胡蝶のこと、よろしくお願い致しまする」
「それは一向に構わぬが」
「つきましては義母上様。私が致しましたら、胡蝶を───」
濃姫が語ったその先の言葉を聞いて、報春院は眉間に深いを寄せた。
到底 受け入れ難い話が、平然と相手の口から飛び出したのである。
「……そなた…、正気か!?」
唖然となっている報春院は、絞り出すような声で告げた。