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「こんにちは。」
一人で訪ねて来た入江に女将は驚きの余り時が止まった。
「あの……今日三津来ました?」
「いえ!今日はまだ!今日はご一緒では?」
入江の問いかけに我に返った女将は何かありましたか?と心配そうな目をした。
「今日は一人で旧友の墓参りに。来てないのなら丁度いい。手土産をと思ったので。」
いつもは外で待っている。中に入り女将と面と向かうのは久しぶりだから,どことなく余所余所しさはあった。https://www.easycorp.com.hk/zh/secretary
「そうでしたか!昨日はこれをお買上げでしたのでそれ以外が良いかと。……毎日律儀にいらして気に掛けてくださる松子様には本当に頭が下がります。」
「三津は誰にでも平等ですから。
では……うーん……もう殆ど食べ尽くしてるのでは?」
「そうですね。毎日いらしてますから。たまには別の物を贈って差し上げては?」
「え?でもせっかく来たのに……。」
「私は入江様が戦から無事戻られて元気なお姿を拝見出来ただけでも嬉しゅうございます。」
女将の笑みに入江は参ったなと頬を掻いた。
「私のお勧めは屯所近くのお店の口に入れると溶けてなくなるお菓子です。」
女将はさぁさぁ行った行ったと店の外まで見送りに出た。
「ではそのお勧めとやらを見に行ってみます。ありがとう。キヨさん。」
入江は会釈をして立ち去った。名前で呼んでもらえた女将は頬を染め,鼻歌交じりに店内に戻った。
「嫁ちゃん……大丈夫か?」
「だっ大丈夫……多分……。」
その様子を物陰から見ていた二人。
まさか入江が一人でここを訪れてるとは思わなかった。
一緒に来ても顔が合わせ辛いからと店の外で待っているのに。一人で店内から出て来た。
『えっ何で?顔合わせたくないんやなかったん?一人で入るの平気なん?』
三津の頭の中は何で何での大混乱。どんどん顔色が悪くなる。
「嫁ちゃんっ!きっと嫁ちゃんに手土産を!」
「手ぶらでした……。山縣さん気にしないで?男の人は女が居たら孕まそうとするように創られてるんでしょ?それは神様のせいなので仕方ないです……。」
「うわぁぁぁ!!ごめん!!要らん事言うてたぁぁぁ!!」
山縣はごめんごめんと連呼しながら三津を締め上げるほどの力で抱きしめた。
「痛い!痛い!山縣さん痛いぃぃっ!!」
これ以上締められたら死ぬと必死に身を捩った。そこで正気を取り戻した山縣は徐々に力を緩めたが,三津を胸にもたれさせて離しはしなかった。
落ち着くまで付き合うと言う山縣の言葉は有難かったが,セツが心配すると屯所に戻った。三津は大丈夫大丈夫と言うがそうは思えない山縣は甲斐甲斐しくついて回って洗濯物を取り込んで一緒に畳んだ。
夕餉の仕度をと台所までついて来たがそれは申し訳ないからと部屋に追い返した。
「私しっかりせんと駄目ですねぇ。」
ここまで心配してもらって申し訳ないと溜息をついた。
「今日は誰も頼れる人おらんけぇ自分がしっかり守ろうって山縣さんの責任感の強さが出ちょるんよ。甘えとき。」
のんびり笑うセツに三津も弱々しく笑ってそうですねとだけ返した。
「三津ー?」
そこへ入江が台所に顔を出した。
「はいっ!あ,お帰りなさい。出掛けたの気付きませんでした。」
三津は何となく気不味くてその場で振り返るだけで近寄る事はしなかった。
「ごめん,戦の報告に宮城さんとこ行っとった。これ,良かったらセツさんと食べり。」
入江は邪魔しないように近くの台の上にお土産を置いてすぐに退散した。
『女将のお店の包みやない……。ホンマにお墓参りしてたんかな……。女将に会ってたの隠そうとしてるんやないん?』
もやもやしたものが胸をいっぱいにしてしまう。でも妬いた所でどうしようもない。
以前より強くなったとは言え,人の死に対しては怯えている部分があってちょっと突けば脆く崩れる。
そんな二人は今の落ち着く時間と場所を守りたいのではないか。
あくまでこれは勝手な見解だ。でもそう思う方がしっくりくる。
「いっぱい色んなモノを失ってきたが故の弱さかね。安心と縋るものが欲しいんだよ。」
「そうか……。当人達がそれで落ち着くなら部外者が口出す事やないけぇな。上手くやってくれたらそれでいい。」 https://www.easycorp.com.hk/zh/secretary
「迷惑かけないように心掛けるよ。
それはそうと三津に粗末なモン見せた罪と文ちゃんの積年の恨みを晴らさねばならんのだが。」
「は?今か?今なんか?」
桂は忘れないうちにやらないとと笑みを浮かべながら刀に手をかけた。
「免許皆伝者が真剣抜くのはいけん!せめて竹刀やろ!」
「じゃあ素直に打ち込まれるか?」
「おっおう!やってやろうやないかぁ!返り討ちにしちゃるけぇ!」
そんな虚勢を張るも桂に勝てないのはよく分かっている。だがもっと酷い罰を与えられるより竹刀で打ち込まれる方がマシだと考えた。
考えたのだが,
「頼む……もう許してくれ……。」
地面にへばりついて早々に降伏した。
「まだよ桂様。息の根止めて。」
「おいこら文!余計な事言うなや!」
見学していた文の野次に反応するが滅多打ちにされて起き上がれず顔だけそっちに向けて吠えたがかなり情けない格好だった。三津とフサは初めて見る桂の胴着姿に格好いいねぇとふやけた顔で眺めていた。
「文さん高杉はん何したん?」
事情を知らない幾松はよく分からんが見ててスッキリしたわと鼻で笑った。
「前に話した私酔わせて襲おうとした罪と三津さんに粗末なミミズ見せつけた罪。」
「粗末なミミズ?ミミズ……ぷっ!高杉はんよう見せたなそんなモン。」
「ミミズじゃねぇ!アオダイショウ!」
「まだ無駄口叩けるようだからもう一勝負行こうか。立ちなさい。」
日頃の鬱憤が溜まっていた桂もいつの間にか高杉を叩きのめす事に楽しみを感じて罰と言う名目が憂さ晴らしに変わりつつあった。
「それなら九一は!?あいつも何かやらかしたんやろ!?三津さん見ちょったら分かるぞ!?」
高杉は上手く矛先を変えたつもりだったがそれは逆効果で仇となった。
「嫌な事思い出させないでくれないか?」
爽やかにどす黒い笑みをした長身の桂に見下され高杉は悪かったと完全降伏した。
「とりあえずこんなもんでいい?」
「ありがとうございます桂様。これをあと十回ほどしていただければ……。」
「文……お前覚えてろよ……。」
「おーい高杉ー!一応言われてた訓練内容終わったぞー。」
赤禰の声がして高杉は助かったと顔を上げた。
「休憩!休め!あと俺を助けろ!」
その声を聞いてぞろぞろとみんなが集まって来た。先頭に赤禰の姿を見つけるとすかさず幾松が擦り寄った。
「赤禰はんお疲れ様,これ使って?」
自分の用意した手拭いと水の入った竹筒を手渡した。赤禰は引き攣った笑顔でどうもと受け取った。
「私も汗を流してくるよ。」
桂は竹刀を高杉に片付けろと渡して井戸の方へ向かった。その後ろを三津はごく当たり前について行った。
「着替えと手拭い用意しますね。」
「自分の事は自分でやるからみんなと居てくれて構わないよ?」
その返答に三津は目を丸くした。
「迷惑ですか?」
「いや!そうじゃなくて,どこまで三津に甘えていいのか分からなくて……。」
「あー……そうですよね。つい癖で。」
「折角一緒に来てくれたから今は甘えるよ。着替え頼んだ。本堂に置かせてもらってる。」
三津は笑顔で分かりましたと答えて本堂まで駆けて行った。桂は先に井戸に行くと胴着を脱いで下帯一枚で頭から水を被った。
『冷静になって考えよう……。私と三津は今どう言う関係と思えばいいんだろうか……。』
何がどこまで許される関係なのかはっきりさせたいところだ。
「それじゃあ私と帰りましょう。私は桂さんが戻ったら家に帰ったと言伝してもらうように頼んで来るので仕度してここで待ってて下さい。」
三津はまたこくこく頷いて静かに廊下を駆けて行った。
入江は吉田に三津を連れ出す事を伝えに行った。
「稔麿ちょっと。」
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声をかけると吉田は不機嫌な顔で出てきた。部屋の中には高杉が居る。
「そこの馬鹿に身の危険を感じた三津さんを家まで送ってくる。」
「そうして。桂さんが戻ったら伝えとく。」
小声でやり取りをしてすぐに入江は玄関へ戻った。
戻ればすでに三津がいて草履まで履いて帰る気満々だった。
『余程帰りたいんだな……。』
入江を見つけると早く早く!と体を揺らした。
「お待たせしました。それにしても……あの馬鹿何したんです?」
「まだ何もされてませんけど笑顔で子供産んでくれって走って来たのがめっちゃ怖かったんです。」
「本物の馬鹿だなあいつ。」
想像出来たのがなお怖い。
「それは何かされる前に逃げて正解です。」
一刻も早くここから立ち去るべきだと三津を連れて藩邸を出た。
「晋作に会った事後悔しました?」
入江がにっと笑って顔を覗き混んだ。
「ちょっと……。悪い人やないから何とも言えないですけど。」
三津は苦笑いで返した。その返事に入江はくくっと喉を鳴らした。
「三津さんからすれば極悪人に見える人の方が少ないでしょ。優しすぎなんですよ貴女は。」
「そんな事ないですよ。些細な事でも腹立つ時はあるし。」
『そう言う意味じゃないんだけどな。』
そりゃ三津の不機嫌な顔は何度か見てるし怒ってる姿も見てる。
でも言いたいのはそこじゃなくて,自分自身よりも周りを優先させること。
どんなに傷付いても自分よりも相手の傷を気にしてる。相手の気持ちを気遣ってる。
『自分を犠牲にしてると分かってないのか?』
高杉から逃れられた安心感から気の緩んだ顔で笑う三津を見た。
「三津さんを一人にしたくないので桂さんが戻るまで家に居てもいいですか?」
また三津を知るための好機だと思った。
三津は心細いからそうしてもらえると助かると言って安堵の笑み。
『この警戒心のなさも自覚した方がいいのに。』
でもこれも好機とさせてもらおうか。
入江の口元が弧を描いた。何の事情も知らない桂はほろ酔いのいい気分で久坂と共に帰って来た。
「やっとお帰りですか。」
「また何かやらかしたのか?」
不機嫌さを隠すことなく出迎えた吉田に,どうせ晋作だろ?と呑気に言う。
「えぇその晋作が長州に戻る気になったそうで桂さんに話があると待ってます。」
桂と久坂は顔を見合わせてから吉田の後について部屋に行った。
そこには黒の紋付袴姿で背筋を伸ばして正座した高杉がいた。
「何だその格好は。」
桂は高杉の正面に座って吉田と久坂は戸の近くに正座した。
「そりゃ真面目な話やけぇ。」
「正装するって俺の無理やり着やがった。」
吉田は汚したらただじゃおかないからなと睨みつけた。
「で?話とは?」
「長州に戻って三津さんを嫁にする。俺に三津さんをくれ!頼む!」
「断る!」
胸の前で腕を組んだ桂はカッと目を見開き怒鳴りつけた。
「それが駄目なら俺の子を産んでもら……。」
「もっといかん!!ふざけてないでとっとと長州に戻らんか!!」
ほろ酔い気分も一気に吹っ飛んだ。高杉の言葉を食い気味に遮って怒鳴りつけ,お互い瞬きもせずに睨み合う。
「ふざけちょらん。三津さんが必要やと思った。この俺を支えつつも叱れる女子はおらんやろ。
そんな嫁が近くにおったら俺はもっと前に進める。長州を動かす糧になる。」
「お前みたいなガキに欲情する程困ってねぇし。
この体に欲情する奴がいたらとんだ変態だな。」
土方の顔は見えないけど,鼻で笑われた辺り,人の上でふんぞり返ってるんだろうと三津は思った。
「もういいでしょ?降りて下さい。」
「じゃあ一つ条件がある。」https://www.easycorp.com.hk/zh/secretary
偉そうにと思ったが,解放されるには聞くしかない。
「死のうとするな。」
「何で…今のこの状態でそれなんですか。
こんな時にこんな格好なのに。」
刀一つで人の命を奪う人に言われたくない。
「人を死に追いやる規則作った人が言う台詞ですか?」
無性に腹が立つ。
勝手な事して勝手な事言って。
人の過去にまで踏み込んで来た。
どうしてそっとしておいてくれないんだろう。
「生きてたら出来る事もあるって人に説教垂れといて,言った本人が死にたがってるのも可笑しな話だと思わねぇか?」
それはずっと前の事じゃないか。今は自ら進んで死のうなんてしてない。
昔の話を持ち出すなんてズルい。
「笑いたかったら笑って下さいよ。
阿呆やって言えばいい。それでも私には新ちゃんだけやったんやもん。」
大袈裟じゃない。彼が全て。
代わりなんかいない。
彼が囁いてくれた言葉を,他の誰かが囁いたって嬉しくない。
彼以外の腕に抱かれたって靡かない。
彼の温もりじゃなきゃドキドキしない。
「笑わねぇよ。そこまでして守りたかったんだろ?立派なこった。」
意外な言葉が返ってきて三津は目を見開いた。
「俺らも似た様なもんだ。命を懸けてでも守りたいモンがある。
どんなに蔑まれても,貫きたいモンがある。
その為にはあの規則は必要だ。俺は命も奪うが,預かってる命もある。」
傷に触れた手が三津の肩から腕へと滑る。「似たようなモン……ですか?」
まさか共感を得られるなんて思っても見なかった。
「似てると思わねえか?
誰かの為に尽くす。正しいと思う事を突き通す。
だからお前は斬られた。法度を決めた俺にも噛みついた。
だが俺にも信念がある。それが譲れないから力で制する。
やり方がちょっと違うだけだ。」
本当にちょっとなのか?と疑問には思うが今日の土方はよく喋る。
考える隙も与えてくれない。
「俺が預かってる命の中にはお前も入ってる。
どんな危険な目に遭っても俺がついてりゃ心配いらねぇ。だから離れるな。」
顔が見えてないから言える言葉もあるもんだ。
きっと三津は耳まで赤くして照れる。そう思った。
「何で手を握りますかね?」
肩から腕を辿って重なり合った手。三津は絡められた指を落ち着きなく動かした。
『こんにゃろう……。
俺がこんなにも真剣に口説いてるっつうのに。』
「雰囲気壊す事言うんじゃねぇよ。漸く分かり合おうとしてんじゃねぇか。
分かり合ったらもっと仲を深めるべきだろ。」
土方の体重が満遍なくのしかかる。馬乗りじゃなくて覆い被さっているのに気付いた。
「私なんかに欲情しぃひんって言ったやないですかっ!」
「欲情なんかしてねぇよ。躾だ躾!
この傷を負うぐらいの覚悟があるなら,今度は俺の為に尽くすように躾てやる。
俺の為なら何だってするって思うようにな。」
「なっ!」
抗議の声を上げる前に,三津は脳が痺れるのを感じた。
耳元で息遣いは感じていた。すぐそこに顔があるのも分かっていた。
それでも耳たぶを噛まれるなんて予想もしてなかった。
「やっ!」
やっと希望通りの反応が見れた。こうなると調子が上がってくる。
「これぐらいで悦ぶなよ。」
「違っ!」
反論しようとすれば,土方は次の一手を打ってくる。
鼻の頭で首筋をなぞって,触れるだけの口付けを落としていく。
飲み込まれそうになるのを身を堅くして堪える。
「女の癖にこんな立派な証を持ちやがって。」
「証?」
自分でこの痕を見ておいて,新平に嫉妬心を抱いた。
「これは自らを犠牲にして守ろうとしたモノがあった証だろうが。
三津,お前が命を犠牲にする事を許せないならお前が愛した男はどうなる。
そいつはお前を守る為の犠牲を自分の命にしたんだぞ。」
「「竹殿」、どうした?」
安富がなだめるも、「竹殿」はおおきな頭を左右に振り振り、どんどん後ずさる。
「竹殿」だけではない。「梅ちゃん」やほかのお馬さんたちも、なにかを嫌がっているのか頸を左右に振っている。 史実では春日は五月十一日の今日、亀田新道というところで戦闘中に重傷を負ってしまう。そしてその翌十二日、つまり明日榎本が説得して服毒自殺することになる。
「土方君、土方君、土方君。公司秘書 今朝もきみの乗馬姿は最高だね」
大鳥は、あいかわらずである。
副長への愛が全開ですぎて、暴走が止まらないようである。
その大鳥の隣で、春日はあきらかにひきまくっている。
まだ二十五歳のかれは、だれかのブログによると「女性とみまごうほどの色白の美形」で、江戸の町をあるけば付け文が届いたそうである。
もちろん、
「どうした、才助?はやくしろっ!」
そのとき、俊冬演じる副長が怒鳴った。
それではじめて、「竹殿」の突然の「副長を乗せるのを断固拒否」状態の理由に気がついた。
かれは、俊冬が死ぬかもしれないことに気がついているのだ。
動物は、こういう機微に敏い。しかも、俊冬や俊春は動物と心を通わせることが出来る。
「だめだ、副長。「竹殿」だけでなく、愛しのお馬さんたちは副長を乗せたくないらしい」
安富も気がついたのだ。だから、わざとそういいきった。
「ったく、おれはお馬さんにも乗せてもらえぬというのか?」
俊冬演じる副長は、気味が悪いほど本人だ。表現はおかしいが、兎に角本物以上に似ている。
成り行きをだまってみていると、かれは「竹殿」にちかづいた。
そして、安富から手綱を奪い取った。
一瞬、無理くりに乗って振り落とされる、というコントでもぶちかましてくれるのかと期待した。
が、かれは「竹殿」のでかい額に自分のそれをくっつけ、しばらくじっとしているではないか。
なに?もしかして、テレパシーでも送っているのか?
「いい子だ」
それから、かれは「竹殿」にさっと跨った。
すっかりおとなしくなった「竹殿」に。
いや、俊冬。いまのは、副長にはぜったいに出来ないことだぞ?
「勘吾、八郎っ。まさか、ともにいくっていうのではないだろうな?おまえたちは、残って鉄と銀の相手でもしていてくれ。万が一ってことがあるだろう?」
「歳さん」
「土方さんっ」
馬上からいわれた二人は、同時に「竹殿」にちかづいた。
「兼定、おまえもだ。今日は、いつも以上になにもかもがすんなりいくような気がする。だろう、主計?」
副長を演じる俊冬は、蟻通と伊庭をスルーした。
かれは相棒に、それからおれにからではない。女性からである。
実際のところは?
自分自身もイケメンだし、イケメンを見飽きているので「こんなもんかな」っていうのが、かれにたいするおれの評価である。
「笑っちまう」
そのとき、馬上からささやかれた。もちろん、副長の声で。
副長演じる俊冬が、いまのおれのだだもれをきいていってきたのである。
ふんっ!笑われる意味がよくわからん。
だって、いまのはネタじゃなかったからな。
「健闘を祈っているからな。無事、弁天台場にいってかの地にいる味方を救ってくれ」
「ああ、案ずる必要はない。なにせおれは、「常勝将軍土方歳三」だからな。そうだよな、主計?」
「おれにふらないでください。だいたい、その常勝っていうのもぽちたまのお蔭でしょう?」
不本意きわまりないが、いまはかれに合わせるしかない。
「そのぽちたまは?」
榎本がキョロキョロしている。
「わたしの「シェリーココ」はどこかな?」
大鳥さん。あなたも気が多すぎですよね?
ちなみに、「シェリーココ」とはフランス語で、「わたしのかわいい子」みたいな意味である。
「おまえよりマシだと思うがな」
そしてまた、馬上からささやかれた。もちろん、副長の声音で。
「副長、いちいちツッコまないでください」
ここは、もちろん俊冬に合わせるしかないよな?
「土方さん。わたしが亀田新道よりの守護にまわるよう、進言されたのはなにゆえです?」
そのとき、春日が尋ねた。
俊冬のやつ……。
春日が助かるよう、ちゃんと手は尽くしてくれているんだ。
「簡単な話だよ、春日君。亀田新道で戦うのは無意味だ。それよりも、力を温存しておきたまえ。ここは、おれたちのような年寄りに任せてな」
俊冬演じる副長は、陽光に白い歯をきらめかせつつムダにカッコつけている。
こういうところまで不気味なほど似ている。いや、まんまである。
「は、はぁ……」
春日はどこか不満そうである。
それは当然だろう。
ヤル気満々なのに、五稜郭で待機していろっていきなり命じられたのである。
テンションがダダ下がりにもなる。
だが、そうしてもらわねばならない。
この日、かれをサポートできる者がいないからである。
ゆえに、不満だろうがテンションダダ下がりだろうが、後方でおとなしくしておいていただきたい。
「おいおい、かような